【読書感想文】砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない A Lollypop or A Bullet
こんにちは。
昨日『すばらしい新世界』の読書感想文を投稿したばかりですが、次の本を爆速で読了したので、再び読書感想文になります。
今回読み終えた本はこちら。
角川文庫から発行された、
桜庭一樹著の
『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない A Lollypop or A Bullet』です。
あらすじ
その日、兄とあたしは、必死に山を登っていた。
見つけたくない「あるもの」を見つけてしまうために。
あたし=中学生の山田なぎさは、子供という境遇に絶望し、
一刻も早く社会に出て、お金という”実弾”を
手にするべく、自衛官を志望していた。
そんななぎさに、都会からの転校生、海野藻屑は何かと絡んでくる。
嘘つきで残酷だが、どこか魅力的な藻屑となぎさは徐々に親しくなっていく。
だが、藻屑は日夜、父からの暴力に曝されており、ある日──
直木賞作家がおくる、切実な痛みに満ちた青春文学。
感想
(以下は盛大なネタバレを含むため、未読の方はお気をつけください)
前回の『すばらしい新世界』
を読んでから、一晩で読了した本書は恐るべきページターナーであり、気づけば朝になって私は点呼に遅刻していた。
物語は主人公である”あたし=山田なぎさ”が語り手となり紡がれており、キャッチーで可愛らしい題名や登場人物が中学生ということからは想像もできないような暴力的、猟奇的なシーンが不気味な対照性をもって目に飛び込んでくる。
登場人物はみな思春期特有の複雑で繊細な感情に揺さぶられ、それぞれの思いは時に爆発し、時に嘘や狂気に転じて物語を加速させていく。
転校生である海野藻屑は父親である海野雅愛から虐待を受けており、藻屑自身がそれを受け入れてしまっている。
「ぼく、おとうさんのこと、すごく好きなんだ」
「うへぇ!」
「……なに、うへぇって」
「いやなんとなく」
「好きって絶望だよね」
藻屑はわけのわかんないことをつぶやいた。p.53
なぎさの兄、友彦により、これは”ストックホルム現象”であることが示唆される。
「好きって絶望だよね」
この一言から諦観と悲壮感が伝わってくる。
父親が飼い犬のポチを鉈でバラバラにした後も、藻屑は父親から逃げることはなかった。
推測だが、藻屑は自分がポチと同じ運命をたどることになると分かっていたのだと思う。
分かっていた上で、転校当初から自分は人魚であると嘘をつき続けた藻屑は、仮想の世界を嘘によって現実に持ち込むことで、逃避という形で自己の安定を保っていたのではないだろうか。
「どうしよう、友彦……」
あぁ。
「友彦。
昨日の夜、藻屑は言ったんだ……」
「こんな人生は全部、嘘だって。
嘘だから、平気だって」p144
藻屑となぎさが大人たちから逃げようと決意をした夜、家出の支度をするシーンで藻屑がなぎさに見せた最初で最後の本物の笑顔が痛切でたまらない。
藻屑の父親がサイコパスであることは改めて述べるまでもないが、藻屑も父親の気質を受け継いでいることは間違いない。
口にすべきこととしてはいけないことの区別ができない、虚言癖、情緒不安定…など藻屑がどこか”狂っている”ことは読者に疑わせる。
それが決定的になるのが、うさぎ小屋の惨殺シーンである。
このシーンこそ、藻屑はほかでもない海野雅愛の娘であり、海野家が異常であることの証拠となって現実味を帯びてくる。
…。
飽きました。
筆舌に尽くし難いほどの読了感。
痛くて、残酷で、悲しくて、でも、どうすることもできない。
一言でまとめるとそんな本です。無力で、救いがない。
「砂糖でできた弾丸では子供は世界と戦えない」
飽きたため省略しましたが、ここに詳しく書いていない野球部の花名島、山田なぎさの兄であり引きこもりの友彦も、それぞれ不安定ながら魅力的な個性を持っている登場人物として物語を複雑に彩っています。
200ページもなく、テンポが非常に軽い本なので、遅くとも3日あれば読了できるんじゃないかな。
百聞は一見に如かず。
気になった方は読んでみてください。
終わり、ばいばい。