【読書感想文】すばらしい新世界

 

 

 

こんにちは。

本を読み終えた後につけていた読書ノートを謎に紛失したので、もうブログに記録を残そうと思います。

 

 

 

今回読了した本はこちら。

光文社古典新訳文庫から発行された、

オルダス・ハクスリー著、黒原敏行訳の、

すばらしい新世界』です。

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あらすじ

 

西暦2540年。

人間の工場生産と条件付け教育、フリーセックスの奨励、快楽薬の配給によって、人類は不満と無縁の安定社会を築いていた。だが、時代の異端児達と未開社会から来たジョンは、世界に疑問を抱き始め……驚くべき洞察力で描かれた、ディストピア小説の決定版!

 

 

 

感想

(以下は盛大なネタバレを含むので、未読の方はお気を付けください)

 

ユートピア…?

いや、ディストピア…?

 

“ボカノフスキー法”により、同じ1つの受精卵から大量に同質の人間を生産する(つまり、双子どころではなく何十もの同じ人間が存在することになる)

 

産まれる前から人間はアルファ・ベータ・デルタ・ガンマ・エプシロンの階級が決定され、それぞれの壜は階級に従った措置(条件付け)を受け、ベルトコンベヤーで運ばれた後に壜の中から産まれてくる。

 

その為に存在するのが

“中央ロンドン孵化・条件づけセンター”

 

…この時点で既にSF感満載。

 

形成された世界国家のモットーは

“共同性、同一性、安定性”

それぞれの階級は、その階級に満足できる“条件付け”を施され、与えられた義務を機械的に行う。

義務を終えると“ソーマ”と呼ばれる快楽物質(薬物から危険な作用のみを取り除いた都合の良い代物!)が配給され、人々は“ソーマの休日”という夢見心地を味わう。

 

と、話したところで伝わらないと思うので、ここで引用。

 

「(前略)人はなすべきことをするよう条件づけられている。そしてなすべきことというのは概して快適な行為だ。自然な衝動の多くは抑えなくていいとされているから、抵抗すべき誘惑など現実にはない。そしてかりに不運な偶然から不愉快なことが起きた場合は“ソーマの休日”が忘れさせてくれる。ソーマは怒りを鎮め、敵と和解させてくれ、忍耐強くしてくれる。昔ならそんなことができるようになるには多大な努力と長年の精神的訓練が必要だった。それが今では半グラムの錠剤を二、三錠呑むだけでいい。誰でも円満な人格が持てる。ひとりの人間が持つモラルの少なくとも半分は壜ひとつで持ち運びできるんだ。苦労なしで身につくキリスト教精神──それがソーマだ」p.342

 

つまり、

人はそもそも不満がないように設定されているし、欲望は何でも満たすことができる。

病気にはならないし、薬によって老いることすらない。

万が一、不都合なことがあればソーマを服用すればたちまちハッピーになってめでたしめでたし。

胎生から機械による大量生産となった人間は“結婚”も必要ではなく、セックスは誰とでも好きにしてOK。

“誰もがみんなのもの”

ということである。

「オージー・ポージー

フォードは愉快

女子にキスしてひとつになる

男子も女子もみんなでひとつ

オージー・ポージー、解き放つ」p.124

 

 

これが“すばらしい新世界”であり、この安定性こそが幸福!な社会では、当然のように統制された秩序に不安定を齎す個人性や感情というのは唾棄されている。

その唾棄されるもののシンボルとして登場するのがあらすじにある“ジョン”だ。

 

これを介して現代のプロパガンダの見え透いた失敗を嘆きつつも、世界観についてはこんな感じ。

 

まず、本書が描かれたのは昭和7年(1932年)ということにまず驚き。

全くそんな風には思えない。

というのも、この小説の主眼である科学技術が敷いた全体主義的社会に相対する我々人間の姿勢が当時と今を比して何も変わっていないからだろう。

 

370ページ近くある本書を読み終わり、ブックカバーを外してタイトルの『すばらしい新世界』と向き合うと、改めて理想の社会とは何だろうかと思料せずにはいられない。

 

産まれた時から管理され、幸福が約束された社会。

望んだものは何でも手に入り、苦悩や葛藤と無縁の社会…。

 

これが『すばらしい新世界』なのか?と自問しても、得られる自答はこうだ。

 

 

「何か違う気がする(語彙力崩壊)」

 

 

苦悩や葛藤を望むわけでは決してないが、刺激が何も無いというのは退屈な気がしてならない。

だが、その退屈でさえ“ソーマ”や“芳香オルガン”、“触感映画”によって充足されるものであるとすれば…。

 

やはり『すばらしい新世界』はユートピアでは?

いやしかし、的な哲学者めいた思考に陥る。

そして、この思考に反映される自分にとっての理想郷が自意識として現れてくることを思索として楽しんでいた。

 

秩序の安定から個人的な感情は排他されるべきではなく、本書のように両極端に二分することが正解だとは思えない。

すばらしい新世界』の安定した幸福社会を羨みつつも、苦悩や葛藤は個人の持続のために必要だと結論付けた。

ジョンと世界統制管ムスタファ・モンドの対話はその意味でも大変興味深く読んだ。

 

「要するにきみは」

とムスタファ・モンドは言った。

「不幸になる権利を要求しているわけだ」

「ああ、それでけっこう」

ジョンは挑むように言った。

「僕は不幸になる権利を要求しているんです」p.346

 

 

不幸になる権利を要求しているんです。

 

他にも自分の常識に懐疑を生じさせる箴言が差し込まれた、俗に言う“考えさせられる本”だった。

 

 

 

飽きてきたので、この辺りで切り上げる。

人狼もやりたいしね。

SFやディストピア小説に興味がある人にお勧めの、『すばらしい新世界

良かったら読んでみてください。

 

 

 

終わり、ばいばい。