【読書感想文】和菓子のアン
こんにちは。
最近、創作活動をする友人ができ、読書に熱が入っています。
本来、読書は一人で静かにするものだと思っていたのですが(正直今も7割くらいはその考えだけど)語り合う人ができると、世の『読書サークル』の意義にも頷ける気がします。
私と友人2人の3人しかいない小さな小さな繋がりですが、ここに来て初めて、大切にしたいと思える、そんな繋がりができました。
はい。
そんなわけで、今回読了した本はこちら。
光文社文庫から発行された、
坂木司著の
『和菓子のアン』です。
あらすじ
デパ地下の和菓子屋「みつ屋」で働き始めた梅本杏子(通称アンちゃん)は、ちょっぴり(?)太めの十八歳。プロフェッショナルだけど個性的すぎる店長や同僚に囲まれる日々の中、歴史と遊び心に満ちた和菓子の奥深い魅力に目覚めていく。謎めいたお客さんたちの言動に秘められた意外な真相とは?読めば思わず和菓子屋さんに走りたくなる、美味しいお仕事ミステリー!
感想
(以下は盛大なネタバレを含むので、未読の方はお気をつけください)
前二冊が鬱々しい話だったこともあり、とにかく心が暖まるようなハートフルストーリが読みたい!と手に取った本書。
読み返すような哲学的問いかけもなく、400ページをあっという間に感じさせるテンポもさながら、特筆すべきなのは何より和菓子。
そう、和菓子。
本書は主人公の梅本杏子(通称アンちゃんなので、以下はアンちゃんと記す)が、『東京百貨店』にある『和菓子舗 みつ屋』でアルバイトをするストーリーなのだが、色々なお客さんに接する中で、四季折々の和菓子が風味も豊かな解説付きで登場する。
洋菓子と和菓子、どちらが好きかと訊かれれば、どっちも好きだと答える程度の思考嗜好しか持ち合わせていない私は、本書に描かれた和菓子の奥深さに感銘を覚えざるを得ない。
和菓子の種類、味、そこにある物語。
和菓子の歴史を知ることは日本の歴史を知ること。
和菓子が誰かの人生に彩りを添えること。
普段、和菓子に対して食べることしか考えていない人は、本書から沢山のことを学ぶことになるのは間違いなし。
「あ、それと梅本さん」
「はい?」
「和菓子と洋菓子の違いを思い出したから、言っておくわ。それは、とても単純なこと。この国の歴史よ。この国の気候や湿度に合わせ、この国で採れる物を使い、この国の冠婚葬祭を彩る。それが和菓子の役目。」p298
本書に登場する月ごとの上生菓子をまとめるとこんな感じ。
5月『おとし文』『兜』『薔薇』
6月『紫陽花』『青梅』『水無月』
7月『星合』『夏みかん』『百合』
8月『蓮』『鵲』『清流』
9月『光琳菊』『跳ね月』『松露』
12月『柚子香』『田舎家』『初霜』
1月『早梅』『雪竹』『福寿草』『風花』
他にも、
私たちも馴染み深い『おはぎ』にも、春は牡丹餅、秋は御萩と呼ばれるほか何通りも呼び方があることと、その理由。
上生菓子に使う『こなし』は京都特有のもので、関東の『練り切り』とは違っていることと、その理由。
『半殺し』『腹切り』『泣く』という和菓子用語。
鹿の子、亥の子餅、月餅、桃山、松風、辻占といった和菓子の数々。
…と、いう風に、本書を読むだけでも和菓子の奥ゆかしさに触れることが出来る。
これが『水無月』
水無月は白いういろうの上に甘く煮た小豆をのせて三角形に切り分けた京都発祥のお菓子。
京都では夏越の祓が行われる6月30日に、1年の残り半分の無病息災を記念して食べる風習がある。
この『水無月』は、室町時代に旧暦の6月1日に氷を食べて夏バテを予防するという風習から由来しており、当時の庶民には氷が高級品であったことから、その代わりとして氷に似せて三角形に切った水無月を食べることで夏バテを予防することになった。
これを読んで和菓子に興味を持った方は、ぜひ本書をお勧めしておく。
というのも、ただ和菓子の知識をつけるだけなら、普通に和菓子の本を読めばいいだけだが、敢えて『和菓子のアン』を勧めるのは、この本にはもう一つの魅力があるからだ。
それが主人公のアンちゃんである。
主人公のアンちゃんが、『みつ屋』でアルバイトをする中で、和菓子や働くことの意味を知り、成長していく姿。
アンちゃんを取り巻く個性豊かな登場人物たち。
『デパ地下』を舞台に繰り広げられる他店とのやり取りや、デパ地下ならではの慣習。
『遠方』『兄』などデパ地下用語も登場する。
右も左も分からないアンちゃんと同じ目線に立って読んでいると、自分も一緒に働いている気分になれる。
飽きました。
和菓子と登場人物の個性が織りなす、風味豊かな小説です。
Amazonのレビューを見ると、評価は2極化していますが、軽く読める小説としては良作だと思います。
ですが、薄っぺらいラノベだと言われれば納得できてしまうので、この本は小説らしさを求めるのではなく、漫画を読んでる感覚で読むのがいいかと。
感想では触れなかったミステリー要素ですが、和菓子に関係するなぞなぞといえば伝わるかな。
和菓子の言葉遊びや由来を知って、お客さんの注文の意図を推理する…って感じです。無血です。
書評は置いておいて、ハートフルストーリーが読みたいという欲求は概ね満たされました。
この本には続編があり、そこではさらに成長したアンちゃんと、さらには同僚の立花さんとの恋模様も描かれるらしいです。
重い小説に疲れたら次に読む本がこれで決まりましたね。
あ、あとは和菓子が食べたくなる。
これは間違いないです。
近場に和菓子屋がないんですけどね。
コンビニにある和菓子で我慢します。
週末だし、自分に甘くなってもいいよね。
終わり、ばいばい。